ss1480 無意味な最後の関門
「ついうっかり熱いものを飲み込んじゃう事って有るよな」
「ええ、熱い食べ物が食道を通って胃に行くのが判るわよね、熱いから」
「そうなんだよ、逆の冷たいものも同じでついうっかり飲み込んじゃうよな」
「ええ、極端に熱いものと冷たいものははっきり道筋が判るわよね、大丈夫なのかしら? 食道や胃腸は…、でもちょっと心地良いわ」
「人間は食べ物を調理する様になって、熱いものや冷たいものを、おいしいと感じる様になった」
「ええ、実験で判っているけれど、猫舌じゃない人は一人も居ないのよね、ただ、子供の頃から熱いものや冷たいものを、舌をうまく丸めたり移動したりして食べられる様になっているだけで、そういうテクニックを禁止したら、猫舌の人と全く同じ反応だったわよね」
「うん、舌は重要なセンサーなのに、体の中に入れる最後の関門なのに、多くの人はそれをテクニックで殺してしまっている。恐ろしい事だ」
「でも、タバコや麻薬を止められないのと同じ様に、熱いものや冷たいものを食べるのを止められないわ」
「うん、しょうがないよ、それより…、最近もっと刺激のある食べものが流行りだしたけど…」
「ええ、生の魚や肉はおいしいけど、それは所詮ちょっと時間が経った死体よね、生きたままを動物なんかと同じ様に食べる事が今、流行りだしたわ、トゲが有ったり暴れまくったりする生きものを、わざわざ好んで食べるのよね、でも実際そういうのが超おいしいわ」
「ちょうど飲み込み易いサイズだよな、地球を支配しそこなった、小人な宇宙人」
「ええ、暴れまわって、あたしに噛み付かれて、そして断末魔の時の顔がまた食欲をそそるわ」
「う、うん…、そうだな、食道や胃腸の心配よりも、食べ物はおいしく刺激的に食べたいもんだよな」
「そうそう、そういう事よ、暴れるから、食道を通って胃に行くのがはっきり判るわ」
「嬉しそうに言うなよ」