「あの子もこの子もぼくの子供として認知しよう」
「えっこれでもう一万人目よ、いくらあなたがお金持ちでも…」
「いいんだよ、きみはぼくが認知症だと思っているんだろ?」
「ええ…、認知症になるとこの宇宙に有りもしない地球とか言う架空の星の住民になって、その架空の星地球で徘徊するようになるって聞いているけれども…」
「うん、ぼくはどうやらそこの住民になる一歩手前のようだ。夜眠りに入るとどうやらその架空の地球という星でくらしているようなんだ」
「まあ、進行すると昼間でも夢遊状態になって地球に行ってしまうんですってよ」
「時間の問題だな、医者にももうどうすることも出来ない」
「でもどうしてあなたは実在するこの星の貧しい子供達を自分の子供として認知するの? まだあなたにはある程度しっかりした意識があるんでしょ?」
「うん、ぼくはまだ完全には痴呆にはなっていない。でも眠りの世界で見る地球という星は今悲惨だからさ、戦争が絶えず、どうしようもない自然災害もある…」
「あなたが完全に痴呆になると地球という星からは出られないわよ」
「出られるさ、その地球にはどうやら死とかいう概念がある。そこで死ぬということになると実在するこの星に精神的に子供として帰って来る。外見は変わらないが地球での生活を一切忘れて、ここでの生活も一切忘れて…」
「それであなたは子供を認知しつづけているのね」
「そうさ、でも自ら死を望んだ者はぼくは認知しないよ」
「あなたがそうしないように、あなたが戻って来たらあたしがあたしの子供として認知してあげるわ、あたしのことを忘れていたとしても」
「ありがとう。負けないよ。そこが現実の世界でなかったとしてもね。負けないよ。」