ss1209 人種
「まあ、この星は地球にそっくりな星ね、星の大きさも、海の割合も、大気の構成までもなにもかも地球だわ」
「ほんとうだ、ぼくらの地球にそっくりだ。お、《ようこそ》って地球の文字で電子掲示板が点滅し始めたぞ、お、その下のゲートが開いた」

『ようこそ地球のお二人。お待ちしておりました』
「こんにちは、ご招待ありがとうございます。まあ、綺麗な… あたしたちにそっくりな方。あたしたちはこの星に今日から住んでも良いのですね?」
『勿論です。地球には二種類の人種が居るとの事で、淋しいでしょうからという事で一緒に暮らそうとお誘いしました』
「ありがとう。地球には六十億人の人間が居るから淋しくはなかったのですが、ぼくら夫婦はまだ若くて生活基盤がなかったもので移住に応じました」
『えっ? 六十億人? 夫婦? 地球には二種類の人種しか居ないと聞いておりましたが』
「え、ええ男と女という二種類の人種しか居ないわよ」
『ですよね、六十億人といえばこの星の住民と同じ数ですよ、でも一つの星にたった二種類の人種とは…』
「…、いや、まあ、ほんの一万年ほど前までは複数の人種が地球にも居たそうなのですが、残ったのはぼくらだけです」
『そうですか、それは災難でしたね、たった二人でずっと広い地球で生きて来たのですね、さあ、街を案内いたします』

「まあ、この都市にはいっぱい人が住んで居るのですね、みんな綺麗… 貴方と同じで女性なのか男性なのか判らないわ」
『女性? 男性?』
「子供が居ないな、ペットも居ない」
『子供? ペット? まあ、良いでしょう。ここが貴方がたの新居です。始めはお二人で住んでこの星に慣れたら別々の家をご用意いたします』
「え、ええありがとう。でもずっと二人で暮らして子供も欲しいのよ」
『え?』

「文明も発達していて快適な星ね」
「お腹もおっきくなって来たな、そろそろ病院に行こう」
『こんにちは、あれ、どうしたのですかそのお腹!!』
「こんにちは、ちょうど良かったわ赤ちゃんが出来たの」
『赤ちゃん? うわっ、生体反応が一つ増えている… こんな事が…!? 病院に行きましょう』
「お願いします」

『判りましたよ、貴方がたは二種類の人種ではなく、一種類の人種だったのですね』
「当たり前ですよ」
『そしてその小さな生命はお腹の中で急速な進化をしている』
「そうよ、あたしのお腹の中で単細胞生物から魚、両生類、爬虫類を経験して尻尾も引っ込んでもう人間になってるでしょ?」
『そのようですね、痕跡で判ります。まさか貴方がたは死ぬのですか?』
「当たり前ですよ、いつかは死にますが、だからこうやって子供に命を託す訳じゃないですか」
『この星の六十億人の人間はみんな四十六億歳です』
「…」
「…」
『その小さな生命と同じように全員単細胞生物から魚、両生類、爬虫類を経験して四十六億年かけて人間になりました』
「つまり、六十億種の人間、相容れない六十億種類の人類が一つの星に同居しているという事なの!!」
「ペット、他の動物が居ない理由も判った。この星は性の無い星なんだ!!」