ss1204 偵察

 おもむろに〝神〟は話し始めた。
≪あなたの能力を宇宙は問うてはいません。あなたの存在と意志を問うているのです≫
<はい、〝神〟様。宇宙にわたしという個が存在した以上器に基いた個としての最大限の意志を施行します>
≪よろしい頑張りなさい。地球という星に肉体という乗り物を貸してあげましょう≫

 こうして彼は地球という星に生を授け人生というものが始まった。
<なんだわたしは、ただ泣いているだけでなにも出来ないではないか… あ、いや、これが赤子という人間という乗り物の初期状態なのだな?>
「どうするのよあんた、子供に飲ませるミルクも買えないわよ」
「うるさい今の時代俺のような平凡な能力ではまともな職業に就く事は出来ないんだよ」
「時代のせいにするの?」
「うるさいだまれおまえも働け」
「冗談じゃないわ、老人介護の仕事しかまともに社会保障のある仕事なんて無いじゃない。それにあたしは人の世話をするのが大っ嫌いなのよ、この子も例外じゃないわ」
<どうやら彼らがわたしの両親というものらしい。肉体を持ったちょっと先輩というところか… しかしこれは…>
「あんた似のこの子の世話なんてやってられないわよ、あんたがあたしを強引に襲ってマウンティングしてこんな結果になっただけなんですからねっ」
<先輩たちは〝神〟との誓いも忘れて自分達の能力内、器内での意志の施行もせずに殴り合いの喧嘩をしているのか!?>
『ぼこっ!』『ばきっ!』『ばこん!!!』
<ちっ違う当て付けに殴られているのはわたしではないか!! わたしはこのまま抵抗する事も助けを呼ぶ事も出来ずにまたすぐに〝神〟の元に帰るのか!? いったいどういう事なんだ!!>

 おもむろに〝神〟は話し始めた。
≪お帰り。偵察を兼ねた予行練習は終わりだ。凝縮した充実した人生がおくれただろう? さあ今度は本番だ。次は頑丈な〝肉体〟と高感度の受信機〝脳〟を貸してあげよう、あなたは肉体を持ってもわたしからのお告げを授けられ、奴等からは〝ニュータイプ〟と呼ばれる筈だ。次の人生はどう生きるか決まっただろう?≫
<はい、〝神〟様。いえ、第1204次移民宇宙船団〝船団長〟。わたしは身を以って危険な先住宇宙船団の先住民を認識し捕捉しました」