ss1118 宇宙旅行
「地上からたった百キロ行っただけの所を宇宙と呼んで、たった四分程度の無重力を楽しむだけで宇宙旅行ビジネスが成立するとはな」
「まあまだ現代はそんなとこだよ、料金も家を一軒買える程度にまで抑えているし文句は言えない」
「まあな」

「しかしたった四分でも地球の小ささや宇宙の大きさが体験出来るものだな」
「不況の時代に全財産継ぎ込んでしまったが、この後の人生どうするよ」
「そうだな、こうやって宇宙を体験してもこの後の人生とか、やがて訪れる死は怖いものだよな」
「つか、俺は今まであまり考えていなかったが、こうやって宇宙を体験してみると、死と同じくらい生きて来た時間が少ない、生まれる前の記憶が無いという事を怖いと思ったよ」
「生まれる前の記憶が無い。そうだな、壮大な宇宙の時間の中のたった数十年の記憶しか人間は記憶を持つ事を許されていない。脳や体を構成する物質は質量保存の法則で形を変えながら宇宙と共に存在し続けるけど、シャッフルされて他の生物の一部となる事も物凄く低い確立になる。自分という存在の記憶はいったいなんだったのかって思い、生まれる前にも世界が有ったと考えると怖いと感じるよな、確かに死と同じくらい生まれる前の事を考えるのが怖くなって来たよ」

『この地球人達もまた変な事を言っているわね』
『そうね、痴呆が進んでいるんだわ、地球人になる前の記憶を忘れるなんて… 重症だわ』
『やはり、この星特有の酸素というものが原因なのよ』