「おまえ… 大丈夫か? クスリのやりすぎだろう?」
「やめられないんだよ、こればかりはやった者しか判らない…、う、うう…」
「おいおい、死んじまうぞ」
「クスリを… クスリをもっとくれ! 俺は全財産をつぎこむぞ」
「…、そこまで言うのなら仕方が無い。次はなんのクスリが欲しいんだ? 闇ルートで買ってきてやるよ」
「前世紀最強の『癌の痛み』というものを体験してみたい」
「…、あれは究極の痛みだという噂だか、大丈夫か? 『癌の痛み』を再現するクスリはおまえの残りの全財産でやっと買える程の価格だ」
「たのむ」
「…」
「うおっうおっうおっ!!!!!」
「こいつ…、喜悦の表情で死んでいったな」
「まあ、うちの人… 満足そうね。クスリをありがとう、あなたに罪は無いわ」
「刺激の無い時代だからな、手足を切って血が出ても痛み緩和ケアシステムが瞬時にはたらくようになっている。我々は産まれる以前からそのシステム遺伝子を植え付けられ、産まれる時の痛みや苦しみも排除されている。もちろん産むほうの母親もだ。帝王切開もへっちゃらだ」
「あたしたちの都市は完全に安全に整備されて、そして完全に医療支配された時代だから、痛みは生存するための警告にもなんにもならなくなったので、触覚や味覚を残して痛みは暫く前から遺伝子レベルで無くしてしまったのよね」
「でも、痛みってそんなに良いものなんだろうか? ? ところでその衣装は」
「前世紀の気品ある『女王様』の衣装なんですってよ、痛みを感じるクスリを始めてからうちの人がよろこぶものでね」
「変なメガネに編みタイツ、鞭? だよね、それで打つの? 赤いローソク?」