「皮膚から万能幹細胞が作れるという事は、分化した体細胞も受精卵と基本的に遺伝子が同じであるという事なんだよな」
「壮大な無駄ね」
「うむ、皮膚を形成する遺伝子部分だけを残して後は無くしても良いと思うよな」
「そうよ、生活の中で事故が多くて再生能力を強くしなければならない下等生物ならともかく、細胞分裂毎に人間一人をまるまる生成出来るだけの遺伝子をコピーする必要なんて無いわよ、下等生物の時のシステムが残っているだけじゃないの? 人間くらいに高度な器官分化する生物は再生ではなくて修復が基本なんだから」
「その人間一人をまるまる生成出来るだけの遺伝子をコピーする工程やエネルギーは凄まじいものだ。その膨大なエネルギーを寿命を伸ばすとかに生かすほうが相当有意義なのにな、それだけのエネルギーがあれば細胞分裂の回数や細胞そのものの耐久力も強くする事も容易な筈だ」
「そうよ、それに膨大な遺伝子情報をコピーする時にコピーエラーが発生して、癌をも発生させてしまうわけだから、癌を発生させないためにも遺伝子のコピーは必要最低限の部分だけを簡素にコピーするというのが、これからの生物人間にとって必要な事だわ」
「うむ、ケガをした時や細胞レベルのストレスを受けた時など、緊急時に眠っている遺伝子が起動する事もあるが、人間くらいに方向性が確定している高等生物ほどその緊急時に起動する遺伝子に柔軟性が無いから本当に無駄だ。やはり細胞分化が終了したら無駄な部分の遺伝子はアポトーシスするように人間の設計を変えよう」
「賛成だわ」
「成功だ。人類の全ては無駄な遺伝子を分化した細胞に持たないようにする事が出来た」
「でも、驚きね、ただ無駄を取り除いただけなのに、あたしたち死なないわ」
「コピーエラーの問題も、テロメアの長さの問題も解決されてしまったからだろう」
「人間だけが進化を止めたわね」
「ああ、死ななくなったのが理由じゃない。体細胞に無駄な遺伝子が無くなったせいだ」
「体細胞全体が環境を感じ取っていたのね…」