ss1004 擬似行為
「妊婦の前でタバコはやめてください」
「あははははは」
「うふふふふふふ」
「そんな時代も有ったな」
「ええ。そのタバコの煙は水蒸気だし、吸っても体に害の無い精神安定剤も入っているわ」
「そうそう、それに君のそのおっきいお腹、擬似羊水が入っているんだよな」
「そうよ、今、あたしたち二人とも高尚な趣味を楽しんでいるのよ」
「子供は人口管理局が遺伝子の調合から階級、知能、技能、性格、容姿まで細かく決めて各新婚家庭に配給されるわけだから、ぼくらはここで待っているだけで良い」
「早く配給されて来ないかしらあたしたちの赤ちゃん」

「…」
「どういう事!? 人口管理局が詐欺? あたしたちの赤ちゃんは?」
「人口が過剰になって来たのです。そのロボット赤ちゃんで我慢してください」
「まあ、仕方ないか、見紛うばかりの精巧なロボットだし、でもちゃんと定期的に交換に来てくれるんだろうね」
「勿論です。少しずつ成長した子供を、貴方がた両親が気付かない睡眠時などを狙い交換に参ります」


「成長した子供の交換に参りました」
「あははははは」
「うふふふふふふ」
「そんな時代も有ったな」
「今や地球には不確実で不純な生物は居ない。人間も居ない。今の地球には擬似行為を高尚な趣味として楽しむ我々ロボットが残って居るだけだ」