ss0876 消化
「同化するって… 食べられるって素適! これが無償の愛。究極の愛だったのね」
「きみもぼくも総意に取り込まれたけれど、きみやぼくという概念も徐々に消えてゆく。やがてまた永遠の退屈がやって来る」
「そうかしら、一度物質界を造って個というものを味わった意識は擬似的に総意というものになっているわけだし、意識の進化を遂げている筈よ」
「う、なるほど。でも、たとえば?」
「エネルギー体のちょっとした変化を大袈裟に楽しむのよ。物質界に居た時もそういうのが有ったでしょう? 何気ない何時もの日常で、箸が転がっただけでケタケタ笑うとか、おやじギャグを思い付いて堪えながら引き攣って笑うとか、晩のおかずが隣の人よりもちょっと少ないというだけで鬱になって自殺したくなるとかよ」
「なるほど、些細な事で大袈裟に喜怒哀楽すれば、無限に続く一つの意識体であっても退屈はしないという事だな、しかも今のこのきみとぼくの会話の様に擬似的に個を演じれば飽きる事も淋しくなる事もないというわけだな」
「そういう事よ。個は総意に同化吸収されても何時でも物質界で組まれた事のある個を呼び出す事が出来るのよ」
「みんな生きているんだね、死なんて無かったんだね」
「そう、エネルギー体の消滅はありえない事だったのよ」
「でも、誰からも忘れさられたら… 総意から個を呼び出されなかったらどうしよう」
「それは死かしら、やっぱり死はあるのかしら…」
「個の消化ってのもあるという事かな?」