「昔は紙のお金が流通していたのね」
「そうみたいね、信じられないわ、破けるし燃えるし」
「昔は金属のお金、コインというものが流通していたのね」
「そうみたいね、信じられないわ、重いしかさばるし」
「昔はカードがお金のように流通していたのね」
「そうみたいね、信じられないわ、何枚も持ち歩いて、無くした時の再発行も大変だったみたいよ」
「今はこれね」
「便利よね、手の平に埋め込まれたチップで買い物が出来るわ。給料の振込みももちろんね」
「意識と連動したチップだから、パソコン操作も無いのよね、レジも無くなって並ぶという事も無くなったわ」
「そう、商品はみんな手の平のチップでしかロックが外せないから、万引きというのも無くなったわ」
「乗り物に乗るのも、映画を見るのも、医者にかかるのも、手をかざして念じるだけでいいのよね」
《あなたのチップには、もうお金が入っていません。医療を中止します》
《まって、体が治れば労働して返すわ、借金システムを利用するわ》
《あなたは首の骨を折り、体はもう動かせません。意識があるだけです》
《家族の手の平チップからお金の移行は出来ないの?》
《出来ません。手の平チップは個々の労働者の生活を守るために開発されたものだからです》
《あくまでも自己責任という事なのね》
《今は『我等』を捨てて、『個』の時代です。他の『個』の生活を侵害する行為は認められません》