「昨日はお隣の鈴木さんに引越しのご挨拶が出来なかったわね」
「そうだな、俺ちょっとまだ片付け物があるから、一人で行って来てくれないか?」
「いいわよ、じゃ、ひっこしそば持って行くわね」
「…、おまえ、カップ面のそばを持っていくのか」
「これはね、前に住んでいた所の地域限定味なの、喜ばれるわよ」
「そうか、それはいいな」
「じゃっ、行って来るわ」
「こんにちは」
「あ、はいこんにちは」
「わたし隣に引っ越して来た鈴木です。宜しくお願いします。つまらないものですが、どうぞ」
「あ、どうもこちらこそ宜しくお願いします」
「では、ごめんください」
「ただいま」
「おかえり、今お隣さんからも…」
「あっ、ごめんなさい。家間違えたわ」
「え、ええ、どこも鈴木家ですからね」
「ついでで済みませんが、近所に越して来た鈴木です。つまらないものですが、どうぞ」
「あ、どうもこちらこそ宜しくお願いします。うちからも地域違いのカップ面のそばですが、どうぞ」
「ありがとうございます。では、ごめんください」
「ただいま」
「おかえり、今ご近所の…」
「あっ、ごめんなさい。家間違えたわ」
「え、また、あ、いえ、どこも鈴木家ですからね」
「ついでで済みませんが、近所に越して来た鈴木です。つまらないものですが、どうぞ」
「あ、どうもこちらこそ宜しくお願いします。うちからも地域違いのカップ面のそばですが、どうぞ」
「ありがとうございます。では、ごめんください」
「ただいま」
「おかえり」
「あっ、ごめんなさい。家間違えたわ」
「はいはい、どこも鈴木家ですからね」
「ついでで済みませんが、たぶん近所に越して来た鈴木です。つまらないものですが、どうぞ」
「あ、どうもこちらこそ宜しくお願いします。うちからも地域違いのカップ面のそばですが、どうぞ」
「ありがとうございます。では、ごめんください」
その日から日本中の鈴木家の奥さんは、カップ面のそばをトレードし配りながら、日本中をさ迷い続ける事となってしまった。