ss0804 すずきけおかえり
「昨日はお隣の鈴木さんに引越しのご挨拶が出来なかったわね」
「そうだな、俺ちょっとまだ片付け物があるから、一人で行って来てくれないか?」
「いいわよ、じゃ、ひっこしそば持って行くわね」
「…、おまえ、カップ面のそばを持っていくのか」
「これはね、前に住んでいた所の地域限定味なの、喜ばれるわよ」
「そうか、それはいいな」
「じゃっ、行って来るわ」

「こんにちは」
「あ、はいこんにちは」
「わたし隣に引っ越して来た鈴木です。宜しくお願いします。つまらないものですが、どうぞ」
「あ、どうもこちらこそ宜しくお願いします」
「では、ごめんください」

「ただいま」
「おかえり、今お隣さんからも…」
「あっ、ごめんなさい。家間違えたわ」
「え、ええ、どこも鈴木家ですからね」
「ついでで済みませんが、近所に越して来た鈴木です。つまらないものですが、どうぞ」
「あ、どうもこちらこそ宜しくお願いします。うちからも地域違いのカップ面のそばですが、どうぞ」
「ありがとうございます。では、ごめんください」

「ただいま」
「おかえり、今ご近所の…」
「あっ、ごめんなさい。家間違えたわ」
「え、また、あ、いえ、どこも鈴木家ですからね」
「ついでで済みませんが、近所に越して来た鈴木です。つまらないものですが、どうぞ」
「あ、どうもこちらこそ宜しくお願いします。うちからも地域違いのカップ面のそばですが、どうぞ」
「ありがとうございます。では、ごめんください」

「ただいま」
「おかえり」
「あっ、ごめんなさい。家間違えたわ」
「はいはい、どこも鈴木家ですからね」
「ついでで済みませんが、たぶん近所に越して来た鈴木です。つまらないものですが、どうぞ」
「あ、どうもこちらこそ宜しくお願いします。うちからも地域違いのカップ面のそばですが、どうぞ」
「ありがとうございます。では、ごめんください」

 その日から日本中の鈴木家の奥さんは、カップ面のそばをトレードし配りながら、日本中をさ迷い続ける事となってしまった。