ss0801 皮り果てた姿
「仕事や家事そして育児や教育まで、ロボットが全てをやってくれる時代になってしまった」
「なんか、残念そうな言い方ね」
「人間はただ生きているだけだ」
「いいじゃないの、自分のためにいくらでも時間が使えるのよ、こんなに楽しいことなんてないわ」
「そうかな、君は毎日エステに通っているようだが、そんなに綺麗になりたいのか?」
「そうよ、美しさを保つのは女の生甲斐よ、ずっと男にちやほやされたいのよ、そしてあなたという最高の男を手に入れたわ」
「…、ぼくはそんな男じゃないよ、外見だけにしか磨きがかけられない世界になったのはわかるけど…、それに君にはもう」
「まあ、ひどいあたしに飽きて、捨てようって気ね、そうはさせないわよ!!」
「うわっおまえ!」
「そうよ、ロボットよ、人肉のきぐるみを着ていたのよ」
「うえっきもちわりぃ!」
「なにを言っているの、きぐるみの内側を見たくらいで、人間なんてみんなこんなもんよ」
「ぎゃ! おまえの衣装ダンス!」
「見るの初めてのようね、そうよ、人皮がずらっと並んでるでしょ、ちゃんとみんな血が通っているわよ」
「エステでだめならきぐるみを変えるしかないわ、さあ、どれがいい?」
「あっ! この娘は、同級生だった…」
「この娘がいいのね、いいわよ」
「そういう事じゃなくて、どうして皮になっているんだ!!」

「いいわよ、もう演じなくても」
「そうだな、ぼくも人皮をかぶったロボットだ、これは最後の『生きた』人間の皮だったのに…」
「そうね、彼は最後まで抵抗していたわ、でも人間は、人間として考えて生きる事をも放棄した。考える事をもめんどうくさくなり、自ら脳を放棄した。仕事や家事そして育児や教育の放棄は、人間として生きる事への放棄でもあったのね、彼は誰も居なくなった偽りの世界に、そして真の孤独には勝てなかったのね」