「冬が終わります。なんとかうちの会社にも春を呼び込みたいものですが…」
「そうだな、ところで家族を支えている一人の社員を社員らしい生活で維持させていくには、いったい何人の派遣社員やアルバイターが必要なんだ?」
「そうですね、ワークシェアリングをやってしまうとたった一人の社員の家庭も救えない状態です。家庭のない派遣社員やアルバイターにはこれまで以上に犠牲になってもらうしかありません。うちの会社では一人の社員に最低十人の非正規社員が必要な計算になります」
「そうか、そうだな、うちの商売の内容上、商品の値段を上げるわけにも、人を減らすわけにもいかない。派遣社員やアルバイターにこれまで以上に犠牲になってもらうしかないようだな、しかし、こんなに下げてしまった給料で、労働基準法の最低の内容で、人が集まるのか? みんな嫌でも金のために介護の仕事とかに行ってしまわないか?」
「大丈夫です。新設のアルバイター紹介所というものがあります。常に人が入れ替わるところで、職業研修という名目でほぼボランティアに近い低賃金で何人でも人が雇えます」
「なんだって、そんなところがあるのか!?」
「彼らはこんな給料でよく頑張って働けるものだな、子持ちも居るとか聞いているが…」
「そうですね、さすがに給料安いので、昼飯は抜いているようですが、全然平気に動いていますね」
《ばかなやつらだ、我々が爬虫人類である事に気付いていない》
《くくく、カメレオン機能でヒトに擬態しているのにな、この機能のおかげで我々の爬虫人類への進化はヒトに気付かれなかった》
《我等爬虫類は哺乳類のような無駄なエネルギー代謝はしない、食事なんか一週間に一度でじゅうぶんだ》
《この調子でいけば全人類と我等全爬虫人類とが入れ替われる日も近い… 僅かに残ったヒト社員は喰ってしまえばいい》
《次の冬が来る前までが勝負だ》
《ああ、我等は変温動物だからな》