ss0779 アウトロー
 その宇宙人は、独り言を始めた。
「社会で生きてゆくためには、話し合いが必要なのね」
「話し合い、おしゃべりは重要なコミュニケーションツールなのだわ」
「地球人の心臓の細胞をばらばらにして培養してみたら、最初はそれぞればらばらのリズムで拍動していたのに、心臓細胞どうしがちょっと触れ合い、おしゃべりしただけで同調した拍動リズムになったわ」
「拍動タイプの間に拍動しないタイプの心臓細胞を入れても、おしゃべりは一つ先にも伝わって、同調した拍動リズムになったわ、速い拍動の方に合わせる傾向があるのね」
「脳や神経、ホルモン酵素とかが、個々の細胞の動作を直接命令しているんじゃないのね、地域社会は地域社会でちゃんと独立して機能しているんだわ、もちろん地域単位、臓器どうしのおしゃべりも、神経とのおしゃべりも、脳とのおしゃべりもやっていて、素晴らしい一つの調和された国家を作っているわ」
「おもしろいわ」
「…、あら、おしゃべりしない子も居るのね」
「我が道をゆく…、気持ちはわからないでもないけど、やんちゃなこの子、この細胞は、こういう調和国家では調和を崩し、国を滅ぼし、やがて自分をも滅ぼす事になるわ」
「でも…、やっぱり自分が好きなように生きていけないって嫌だわ、自分が生きたいように生きているだけなのに、周りから癌とか言われるのも屈辱的よね?」
「この星の多細胞生物内で暮らしているアウトローを救う事はできないわ」
「取り出して培養液の中で永遠に生きさせる事も可能だけど、それは籠の中の鳥、本当の自由じゃないわ」
「やはりこの星の多細胞生物も、構造はおもしろいけど、失敗作ね」
「地球人は、宇宙の益になるかしら…」
 その宇宙人は、高度に進化した単細胞生物だった。