気候のいい南国で、過去を知る初老の二人は、いつもの同じ内容の会話を始めた。
「人間って、満たされると、なんにもしなくなるんだな」
「そうだな、想像はしていたけれども、これほどとは」
「みんな生きているんだか、死んでいるんだか… やれやれ」
「画期的な食料が開発され、飲み食いする事に全ての人間が苦労しなくなったのが最大の原因だ」
「これだな、昔のサプリメントみたいなコンパクトな固形物だ、これを一日三回飲み込むだけでいい。水分も体内で化学精製されるから、これ以外なにも不要だ」
「生産も簡単だ。バイオ技術の発達でちょっとした場所さえあればほとんどコストはかからない。自宅で簡単に培養が出来る」
「飲み込むだけだから歯はもはや不要だ、顎の小さい近代人は歯並びに悩まされていたが、今や歯は、たんなるファッションとして残されているだけだ」
「胃も不要になり、小腸が数センチあるだけでいい、大腸も肛門も実質的には不要だ。不要器官の癌化を阻止するために、産まれた時に割礼とともに取り除く傾向にある」
「争いの無い世界になった」
「自然と戦闘ゲームも無くなった。競争するタイプのゲームも全て自然に無くなった。ゲームの中心だったのに…」
「金持ちや貧乏人という概念も無くなって、家族を持つとか養うとかいう基本本能も無くなって、そして性交も相手の容姿を多少気にするだけで、乱交状態になっている。というか、性に対しても競争や興味が無くなってしまっている。トキメキという言葉、頑張るという言葉は死語になった」
「争いの無い世界になった」
「争いの無い世界になった」
「つまんない世界だな」