ss0693 初コンサート
「あたし歌手になりたいの」
「そうだな、確かにきみは歌がうまい、応援するよ」
「あたしチャラチャラした歌はいやなの、本格的な発声で、昔の人みたいにマイクを使わずに声量で勝負したいの」
「えっ、でも、現代は昔と違って、人気が出ると何万人もの人の前でコンサートを開く事になるんだよ、後ろの人には全然聞こえないよ」
「そこをなんとかするのがマネージャーの仕事でしょ」
「え、いつのまにか僕はきみのマネージャーになっていたんだね、しょうがないな、なんとかしよう」

「海中コンサート!?」
「そうさ、人魚ガムというのが売っているだろ、一時的に赤血球の能力を高めて、水中で水を空気のように扱えるようになるやつさ」
「ええ知ってるわ、定期的に水面に出て呼吸しないといけないけど、イルカのように口や鼻や耳の中を水で満たしても大丈夫になるのよね」
「そうさ、人魚ガムをお客にも配って、海中でコンサートするのさ、音速音波音量は空気中の四倍ものパワーになるんだ」
「四倍!? どういう事? 音波って、空気中より水中のほうが有効なの?」
「そうなんだ、音波は圧力が物質中を伝わってゆく現象なんだ、粒子が物質中を通過しようとして抵抗を受けて遅くなるのとは違って、反対に密度の高い水中では速くなるんだよ」


「あたしの初コンサート、人間よりイルカたちのほうが多いわ…」