ss0163 生死の分かれ目

 無限数の精子の生死の分かれ目ほど、過酷な競争はない。
 少し窶れた、別々の家庭を持つ二人は、いつものシングルベットに居た。
「全ての卵子を無駄にせず、受精させるということが出来ないのは、ある意味悲劇だわ」
「卵子にばかり気が行くけど、精子だってかわいそうじゃないのか?」
「精子は… 卵子は母親そのものが胎児の時にすでに卵母細胞の数が決まっていて、閉経までに排卵出来る数は知れているけど、精子は一生の間作り続けられ、その数はまさに星の数程になってしまうわ、かわいそうなんていっていられないでしょ」
「命の源が、両方とも無駄を承知で大量に作られるというのが、人間の感情としてはやるせない」
「そうね、精子も卵子も一生の間で確実に受精出来る数個づつの無駄のない生産が理想よね、生理の苦しみも激減するしね」
「そうだよ、数が少なく貴重になれば、現代の乱れた性文化も清く正しく清楚なものとなる筈だ」
「それはどうかしら」
「… 精子の水子供養を根気よくやってみようかな」