ss0073 記憶

 記憶がその人をその人たらしめている。
「死んだら火葬にするよりも土葬、土葬よりもミイラ、ミイラよりも冷凍保存が復活出来る可能性が高い」
「でも、かんじんの意識が、記憶が消えてしまうんですよね、土葬もミイラもそして冷凍保存でも」
「そうなんだよ、小脳や中脳を中心に本能に多くの部分を依存して生きる動物は問題ないんだが、人間が人間らしく生きるには同じ人間の大人による十数年の養育、教育期間が必要だし、冷凍しても大脳から記憶が消えているので、再教育の時点で別の人間になってしまう」
「でも… 脳内にある、記憶をつかさどる記憶物質を別の人間に移植注入してやると記憶も移植されるそうじゃないですか、ネズミの実験では、ある学習をさせた仲間の脳をえさに混ぜて、学習をしていない別のネズミに食べさせただけで、その学習内容が脳を食べたネズミの記憶に追加されたという報告を聞いています」
「ああ、そうだな、その技術を確立し、それを繰り返せば永遠に意識は死ぬ事はなくなり、ミイラや冷凍人間を作らなくても済むかも知れないな」
「そうですよそれにその体はなにも万能細胞から造った自分のクローンにこだわる必要は無く、他人の体を奪って記憶を追い出し、自分の記憶を注入する事もできるわけですから、容姿の良い人間は狙われちゃいますね」
「整形手術より完璧に自分を変えられるわけだ」
「自分の性に違和感を持っている人にも応用出来て、嬉しい技術ですね」