ss0057 はげ

 その男の頭はどう見ても、ずらだった。
「おまえもう少し高いかつらにしたほうがいいんじゃないのか? 前々から云おうと思ってたんだが、それだとばればれだぞ」
「えっ、心外だなあ、ぼくはかつらなんかかぶっちゃいませんよ」
「無理しなくていいよ、女子社員はみんな帰ったし、っていうか噂されてるよ。じゃ、ちょっと貸してみろ、なんとかしてやる」
「痛っ!」
「ああっ! ごっごめんそういうことだったのか!!」
 その男は、少ない自毛を枝毛にし、パーマをかけてボリュームを増し見繕っていたのだ。しかし、たった今彼は正真正銘の完全なはげとなってしまった。