ss0051 双生児
双生児の二人は編入学のため、学校指定の病院に健康診断に来ていた。その待合室で、鏡に映る絵を見ていた。
「あの内臓の絵、簡略化してあるけど気持ち悪いな… 内臓は左右対称ではないからよけい気持ち悪い」
「人間の外見は左右対称だけれども、内臓はそうではない。心臓は左に一つ、肝臓は真中に、胃も大腸小腸もみんな左右非対称の形のものが一つづつだ」
「しかし…」
「そう、それが時々左右反対の人間が現れる。右に心臓があり、他の臓器も鏡で写したように反対なのが…」
双生児として生まれた場合、双生児研究機関に連絡がいき、任意で研究に協力する事になる。そのため二人は子供の頃から医者から学校では教わらない医学知識を得ていた。
「それは生まれ付きなのか、それとも… 太陽を挟んで、地球の軌道のちょうど反対側にもう一つの地球があるってことだけど…」
「常に太陽に隠れているもう一つの地球… 鏡の臓器を持つ彼らは、地球からは絶対に見えないもう一つの地球からトリップして来たのだろうか?」
「反物質でもないのに、どうしてそんなもう一つの地球やドッペルゲンガーみたいな人達が存在するのだろう」
「いや、宇宙にある物質はミクロからマクロに至るまでみんな実際には対で出来ている。電子、陽子、クォークの構造、そして我々の太陽も木星との標準的な二重連星だし、この銀河も隣のアンドロメダとの重力関係にある。だから別に不思議でもなく、正常なことなのだろう、バランスをとるために」
「う~ん、そうかも知れないが、左右反対の人間がこちらに来ているということは、同時にその対の人間は向こう側に行ったということなんだろう、バランスをとるために… しかしなんでそんなことが」
「あれっ君達心臓が逆に付いてるよ」
左右の概念そのものが反対であれば、しばらく本人たちは入れ替わっていることすら気付かない。