ss0028 アブラムシ
覚めた時、そこは未来の世界だった。
「あなたは植物人間として60年も眠っていたのよ」
美しい女医は云った。
「年齢もさることながらずっと筋肉を使わなかったので、残念ながらあなたは今後も体を動かす事は殆どできません」
私は脳波で駆動する車椅子で、未来の街へ繰り出した。
ごみ一つ落ちていない綺麗な街だ。建物はヨーロッパの城下町調にメルヘンチックに統一されており、いたる処に花が植えられていた。未来というよりも中世にタイムトラベルしたような感じだ。国民の趣味でわざわざそうしているのだろう…
おかしい、私の居た病院、そしてこの街…
「すみません、男の人達は何処にいるのですか?」
私は近くに居た私と同じくらいの老婆に話しかけた。
「おや、男ね。男を見るのは何十年ぶりかしら」
「えっ! どういうことです!?」
「半世紀前に女性解放革命が地球規模で起きたんだよ」
「女性解放革命!?」
「そう、男がいるから戦争が起き、女はいやおうなく戦争に捲き込まれる。男がいるから女はレイプされ、殺される。男がいるから女は家事で一生を奪われる。だからさ、そういうことさ」
老婆は明るい声で答えた。今の生活に満足しているといった強い印象を受ける。
「安心しな、男はみんなあんたのような体になって、種採り用に遺伝子資源保存局に、施設の規模に合った数だけ居るよ。みんな美形ばかりだ」
老婆は少し意地悪そうに、少しほぐそ笑んで云った。
「!」
私は、近くに植えられていたパンジーに群がるアブラムシを見ながら思った。
アブラムシと同じだ。春から秋までメスのみを自分のクローンとして産み増やし、冬になる直前にオスを産み交尾し、冬を越せる丈夫な卵を産む。必要な時以外、オスはいらないんだ。