ss0005 妊娠
「おお、妊娠したかあ」
「ええ、でもこれから外国でお仕事でしょう」
「そうなんだ、妊娠しているから連れて行く訳にはいかないが、ちょうど生まれてくる頃には帰れる予定だ」
お腹が大きくなり、病院で電話を待っている。
「そろそろ空港に着く頃だわ」
看護婦が来る。
「奥さん、大変です。ご主人の乗っていた飛行機が墜落しました」
「ええ!」
暫くして。
「残念ですが… 会社の方で確認したそうです」
「…」
「どうしますか? 新しい法律で人口の増えすぎた現在、九ヶ月の妊娠者にも…」
「待って!」
(どうしようどうしよう。私には身寄りは無いし、あの人の両親は私との結婚に反対だったし… 嗚呼、あの人の子供をこのままずっと妊娠していたい)
暫くして。医者の前でたどたどしく口を開いた。
「この間新聞で読んだのですが、食料不足を解決するため、発展途上国の子供の成長を遅らせ、さらに小人化させる薬が条件付で解禁になったそうで…」
「はい、良いでしょう。そのプロジェクトには私も関わっていました」
若い医師はあっさりと云った。子供だけでなく胎児にも臨床実験したくてうずうずしているといった感じだった。
その薬は効果てき面だった。その週のうちにお腹は見る見る萎み、妊婦には見えなくなった。
「経過が知りたい。一ヶ月に一度くるように」
「はい、本当にありがとうございました」
一ヶ月後。
「フラクタル現象だ!!」
若い医師は動揺していた。
「あなたの娘さんは、あなたのお腹の中で急成長して大人になり、しかも処女懐妊している。単位生殖型の妊娠だ」
「えっ!?」
「アリと同じです。あなたは最愛の旦那さんの精子を生かし続け、今も保持している… あなたは永遠に妊娠し続ける女王アリになってしまった」